健康経営の効果測定|何を測り、いつ比べるかの設計

2026年 9月 11日

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研修を実施し、アプリを導入し、参加者の満足度も高かった。それでも「で、効果は」と聞かれると答えに詰まる。健康経営の担当者が毎年ぶつかる場面です。効果測定が難しいのは、測る手段がないからではありません。何を指標に置くか、何と比べるかを施策の前に決めていないためです。この記事では、指標の選び方、比較の設計、そして健康経営度調査に記載できる形での残し方を整理します。

健康経営の効果測定は施策の前に設計する

実施後に「何かデータはないか」と探し始めると、手元にあるのは参加者アンケートだけ、という状況になります。そこから言えるのは満足度までで、組織に何が起きたかは分かりません。

先に決めておくのは4つです。指標、測定のタイミング、比較の相手、そして集計の切り口。この4つが決まっていれば、施策の直前と直後に同じものを測るだけで検証が成立します。

指標は、施策が動かそうとしているものに近いところから選びます。生理痛体験研修であれば周囲の理解度や相談のしやすさ、睡眠改善の施策であれば睡眠時間と日中の眠気、というように、間に何段も挟まらない指標を置いてください。離職率や医療費のような遠い指標は、動くまでに年単位かかり、他の要因も混ざります。

前後比較だけでは足りない理由

施策の前と後で数値を比べる方法は、最も手軽で、最も誤解を生みます。同じ期間に起きた他のことが、すべて結果に混ざるためです。

期の切り替わり、人事異動、繁忙期の終わり、他の施策。前後で数値が改善しても、施策の効果なのか季節変動なのかを区別できません。逆に悪化したときも、施策が悪かったのか外部要因かが分かりません。

健康に関する指標には季節性があるものが少なくありません。睡眠時間や運動習慣は夏と冬で動きますし、メンタル関連の指標は年度替わりの前後で変化します。冬に施策を実施して春に測れば、施策と無関係に数値が動いている可能性が残ります。前年の同時期の数値を持っていれば、この分は差し引いて考えられます。過去のデータがない初年度は、季節性の影響を受けにくい指標を選ぶという判断もあります。

現実的な補い方は3つあります。

方法やり方注意点
対照群を置く実施部署と未実施部署で同時期に測る部署の属性が違いすぎると比較にならない
段階導入部署ごとに時期をずらして展開する全社一斉より時間がかかる
用量反応を見る参加回数や利用日数と変化量の関係を見る熱心な人ほど参加するという偏りが残る

対照群を置くのが最も強い方法ですが、健康施策を一部の従業員にだけ提供することへの抵抗は現場に必ずあります。実務では、全社展開を前提にしたうえで導入時期をずらす段階導入が受け入れられやすく、比較の設計としても成立します。

段階導入を選ぶ場合、どの部署から始めるかで結果の読み方が変わります。意欲の高い部署を先行させると、効果が大きく出たあとで全社展開したときに数字が下がり、施策が劣化したように見えます。可能であれば、規模と業務の性質が近い部署を2つ選び、片方を先行させてください。

何を指標に置くか

健康経営で使われる指標は、施策からの距離で3段に分けて考えると整理できます。

  • 近い指標:研修の理解度、相談窓口の認知率、アプリの継続利用率、睡眠時間や運動習慣の自己申告
  • 中間の指標:プレゼンティーイズムの発揮度、私傷病休職の発生件数、有給取得率、継続意欲
  • 遠い指標:離職率、医療費、労働生産性

近い指標は動きやすく、施策との関係も説明しやすい反面、それ自体は経営に響きません。遠い指標は経営に響きますが、動くまでに時間がかかり、他の要因が混ざります。3段すべてを持ち、近い指標で施策の稼働を確かめ、中間の指標で効果を測り、遠い指標は年単位で追う、という役割分担にしてください。

経営に報告するときは、遠い指標だけを見せないことです。離職率が動いていないという報告は、施策が効いていないという結論に直結します。近い指標と中間の指標で何が動いたかを先に示し、遠い指標はまだ判断の時期ではないと添える。この順序であれば、単年度の数字で打ち切られる事態を避けられます。

指標の数は絞ってください。10も20も並べた資料は、どれが本筋か分からなくなります。近い指標から2つ、中間から2つ、遠い指標から1つ。この程度で十分に議論できます。

出勤しているのにパフォーマンスが出ていない状態を金額に換算する方法は「プレゼンティーズムの測定方法:損失額の計算や分析方法から対策まで」に、欠勤側と合わせた全体像は「アブセンティーズムとプレゼンティーズムとは?企業が知るべき健康経営の課題と対策」にまとめています。投資額に対する効果の見積もり方は「健康経営の投資対効果」で扱っています。

平均で見ると効果が消える

効果測定でよく起きるのが、全社平均では何も動いていないように見える現象です。集計の切り口を決めておくべきなのは、これを避けるためです。

Floraがある地方銀行(正社員約2,000名規模)の人事データを数年分たどった集計では、私傷病休職の男女差は全社をまとめると1.24倍でしたが、雇用形態を正社員系にそろえると2.5倍になりました。同じ在籍データから出た数字です。30代に絞ると3.7倍まで広がります。

全社の平均値だけを追っていれば、この集中は最後まで見えません。施策の効果も同じで、対象となる層で起きた変化が、対象外の人数に薄められて消えます。集計は最初から、雇用区分、年代、性別、部署、そして施策への参加の有無で切れるように設計してください。なお、この集計は1社の中で観察された関連であり、因果を断定するものではありません。

切り口を後から足すのは難しくありませんが、データの持ち方によっては不可能になります。サーベイの回答を匿名で集めていて、属性が一切紐づいていない場合、あとから雇用区分別に見ることはできません。匿名性を保ちながら属性で切れるようにするには、回答時点で必要最小限の属性を選択式で取得しておく設計が要ります。取得する属性は、集計時に個人が特定されない粒度に限ってください。

参加者の偏りをどう扱うか

健康施策には、もともと健康意識の高い人が参加しやすいという偏りが必ずあります。研修に自主参加した人の指標が改善していても、その人たちは施策がなくても改善していたかもしれません。

完全に取り除くことはできませんが、緩和する方法はあります。参加前の時点の指標で参加者と非参加者を比べ、出発点が揃っているかを確認すること。揃っていなければ、出発点の近い人どうしで比べること。この2つで、少なくとも「もともと良かった人が良くなっただけ」という指摘には答えられます。

参加が任意の施策では、参加率そのものも指標になります。全社員向けの研修で参加率が3割にとどまるなら、効果を測る前に届け方の問題があります。誰が参加していないのかを部署と職種で見ると、案内が届いていない層が見つかることがあります。

健康経営度調査に書ける形で残す

健康経営度調査では、実施した施策について効果検証の内容を記載する欄があります。記入の段階で困らないよう、次の形で記録を残しておいてください。

  • 施策名と実施時期、対象者数と参加者数
  • 測定した指標と、測定した時点(実施前・実施後の日付)
  • 変化の数値(前後の値と差分)
  • 比較の方法(対照群、段階導入、用量反応のいずれか)
  • 次年度に向けた改善点

この5点が揃っていれば、調査票の記入は転記で済みます。逆に揃っていないと、毎年この時期に過去の資料を探し回ることになります。

記録を残す場所も決めておいてください。担当者の手元のファイルに散在していると、異動のたびに過去の経緯が失われます。施策ごとに1ページの記録を作り、共有フォルダに年度別で置く。この程度の仕組みでも、3年目以降の申請作業がまったく違うものになります。

なお、効果検証は「実施した」と書くだけでは評価されません。何を測り、どう変わり、次に何を変えるかまで書けているかが問われます。次年度の改善点を毎回一行でも残しておくと、翌年の記入がつながります。サーベイを取っているのに活用されない状態に陥る原因は「エンゲージメントサーベイは無駄?形骸化する原因や効果的な活用法を解説」で扱っており、健康施策の測定にもそのまま当てはまります。

Floraの支援:同じ指標で前後を測る

Flora株式会社の「Wellflow」は、従業員が日常的に使うヘルスケアアプリと管理職・全社員向けの研修に、導入前後を同じ指標で測る効果検証サーベイを組み合わせた健康経営支援サービスです。施策の前に指標と切り口を設計し、実施後に同じ設問で測り、健康経営度調査に記載できる形で結果を残すところまでを一つの流れとして支援します。生理痛体験研修とあわせて、これまでに150社以上に導入されています。

まとめ

健康経営の効果測定は、施策の前に指標・タイミング・比較の相手・集計の切り口を決めるところで八割が決まります。前後比較だけに頼らず、段階導入か用量反応で補う。近い指標と中間の指標と遠い指標を役割で使い分ける。そして全社平均に頼らず、雇用区分と年代で切る。

この設計を一度作れば、翌年以降は同じ枠に数字を入れるだけで済みます。初年度に時間をかける価値があるのは、この繰り返しが効くためです。自社での設計は無料相談でご案内しています。

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