卵子凍結の企業補助とは?|東京都の助成制度と福利厚生として設計するときのポイント
2026年 9月 10日

卵子凍結を福利厚生で補助する企業が、少しずつ増えています。東京都は2023年10月から個人向けに費用の助成を始め、2026年7月施行の女性活躍推進条例にもとづく指針でも、卵子凍結は事業者が配慮すべき女性特有の健康課題の1つに挙げられました。一方で、人事の側には「会社が卵子凍結を勧めることになるのではないか」「不妊治療の支援と何が違うのか」という迷いもあります。この記事では、卵子凍結の基本と東京都の助成制度を確認したうえで、企業が補助を設計するときの要点と避けたい失敗を整理します。
卵子凍結とは何か、なぜ企業の福利厚生に入ってきたか
卵子凍結は、将来の妊娠に備えて卵子を採取し、凍結保存しておく医療行為です。がん治療などの前に行う医学的な凍結と、病気ではないが今すぐ妊娠を望まない人が将来のために行う凍結があり、企業の福利厚生で話題になるのは後者です。健康保険は適用されず、採卵準備のための投薬から採卵、凍結までの費用と、その後の年ごとの保管費用は自己負担になります。
企業の福利厚生に入ってきた背景は3つあります。1つ目は費用の大きさで、自己負担が数十万円単位になるため、若い世代ほど費用が選択の障壁になっていること。2つ目は、2022年4月に不妊治療が保険適用になったのに対し、卵子凍結は保険の外に残ったこと。3つ目は、東京都が2023年に個人向け助成を始め、行政が支援する対象として認知されたことです。
もう1つ、東京都の女性活躍推進条例の指針が、事業者が配慮すべき女性特有の健康課題として、生理・PMS、不妊治療、卵子凍結、更年期障害、女性特有のがんの5つを挙げたことがあります。指針が求めているのは補助金ではなく、情報提供や相談できる体制ですが、卵子凍結という言葉が行政文書に載ったことで、企業が扱いやすくなりました。
東京都の卵子凍結助成制度
東京都福祉局の「卵子凍結に係る費用の助成」は、都内に住む個人が対象の制度です。企業の補助を設計する前に、従業員がこの制度を使えるかどうかを確認しておくと、会社の補助は都の助成の上乗せとして設計できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 東京都に住む18歳から39歳までの女性(採卵日時点の年齢)。不妊症の診断を受けて治療目的で行う人は対象外。1人1回 |
| 助成額 | 凍結を実施した年度に上限20万円。翌年度以降、保管に関する都の調査に回答するごとに年2万円(令和10年度まで) |
| 合計の上限 | 令和8年度に凍結した場合は最大24万円(令和5年度凍結は最大30万円) |
| 対象となる医療行為 | 採卵準備のための投薬、採卵、卵子凍結 |
| 条件 | 都のオンライン説明会に参加し、調査事業への協力を申請すること。説明会参加から都に申請するまで都内に住民登録があること。凍結後も令和10年度まで都の調査に回答すること |
| 申請期限 | 令和8年4月〜12月に終了した分は令和9年3月31日まで。令和9年1月〜3月終了分は令和9年6月30日まで |
出典:東京都福祉局「卵子凍結に係る費用の助成 事業の概要」(2026年9月時点)。制度の内容は年度で変わるため、申請前に最新の公表資料を確認してください。
ポイントは2つあります。都の助成は、凍結した卵子を実際に使う段階まで追跡する調査事業の一部であること。そして、都外に住む従業員は対象にならないことです。都内に本社があっても、従業員の居住地は分かれます。会社の補助を設計するときは、都の助成を受けられる人と受けられない人で不公平にならないようにする必要があります。
企業が卵子凍結の補助を福利厚生として設計する5つの要点
不妊治療の休暇や補助は、多くの企業で制度化が進んでいます(「不妊治療と仕事の両立支援制度のつくり方|休暇・就業規則の実例」)。卵子凍結の補助は、それとは設計の考え方が違います。不妊治療は今ある課題への対応ですが、卵子凍結は将来の選択肢を残すための投資で、使うかどうかは本人が決めることだからです。
- 対象と上限を決める。 対象は正社員のみか、契約社員も含めるか。上限は1回あたりの定額か、費用の一定割合か。都の助成を受けられる人には上乗せ、受けられない人には都の助成相当額を含める、といった調整も考えられます。保管費用を含めるかどうかも決めます。
- 申請の経路を人事から切り離す。 卵子凍結の申請は、本人の将来設計に関わる情報です。上司や所属部門を通さず、限られた担当者だけが扱う経路にします。健康保険組合や外部の福利厚生サービス経由にする企業もあります。
- 不妊治療支援と棲み分ける。 不妊症の診断を受けた人は、都の助成では対象外です。会社の制度でも、不妊治療の補助と卵子凍結の補助を別の枠にしておくと、どちらの制度を使うかで迷わせません。不妊治療側の設計は「不妊治療への企業の支援制度|助成金と休暇制度の設計例」を参照してください。
- 情報提供をセットにする。 卵子凍結は、凍結すれば将来必ず妊娠できるという医療ではありません。年齢による成功率の違い、採卵に伴う身体への負担、保管の期限、使う段階での費用を、補助の案内と一緒に伝えます。都の助成が説明会への参加を条件にしているのは、この理由からです。
- 通院のための休暇と組み合わせる。 採卵までには複数回の通院と、採卵日には半日から1日の休みが要ります。不妊治療のための休暇や時間単位の休暇を卵子凍結にも使えるようにしておくと、補助だけの制度より使われます。
導入の手順
- 従業員の関心を匿名で確認する。 女性の健康に関するサーベイに、卵子凍結を含む妊娠・出産の選択肢について「情報がほしい」「費用補助があれば検討する」といった設問を加えます。関心の有無と年代が分かれば、対象と上限の議論が具体的になります。
- 既存の制度と並べて位置を決める。 不妊治療の補助・休暇、婦人科検診の補助、低用量ピルの補助を一覧にし、卵子凍結の補助がどこに入るかを決めます。
- 規程に書く。 対象、上限、申請の経路、必要書類(医療機関の領収書など)、情報の取り扱いを福利厚生規程に明記します。都の助成との併用可否も書いておきます。
- 案内と情報提供を同時に出す。 制度の案内と、医療の基礎知識・限界の説明を同じタイミングで出します。案内だけが先に出ると、制度の趣旨が誤解されやすくなります。
- 半年後に利用状況と案内の届き方を確認する。 件数だけでなく、制度を知っているかをサーベイで確認します。
避けたい3つの失敗
会社が卵子凍結を勧めていると受け取られる。 補助の案内が「今はキャリアに集中して、出産は後で」という圧力に見えると、制度は逆効果になります。案内文では、使うかどうかは本人の選択であること、妊娠・出産の時期に会社が関与しないことを明記します。産休・育休・時短の制度と同じ場所で案内し、今産む人も後で産む人も等しく支援していることが分かる形にします。
医療の限界を伝えない。 補助額だけを示して制度を始めると、「会社が補助したのに妊娠できなかった」という状況をつくります。年齢による成功率の違いと、凍結卵子を使う段階での費用や身体の負担は、補助の案内に必ず載せてください。
制度をつくって利用率を見ない。 申請件数が少ない場合、費用の問題ではなく、申請の経路が上司経由になっている、情報が届いていない、という理由が多くあります。件数は個人を特定しない形で集計し、年に一度は案内の方法を見直します。
女性の健康支援の全体像の中に置く
卵子凍結の補助は、それ単体では福利厚生の1項目です。効果が出るのは、女性の健康支援の全体像の中に置いたときです。婦人科検診やブライダルチェックの補助(「ブライダルチェック費用を企業が補助する意味」)、低用量ピルの補助(「低用量ピルの企業補助とは?」)、不妊治療の休暇(「不妊治療休暇とは?」)と並べると、20代から40代までの各段階に支援があることが従業員に伝わります。
このとき、制度の案内と一緒に、月経・妊娠・更年期にわたる健康の基礎知識を提供する仕組みがあると、卵子凍結を「使うかどうか」の判断も本人がしやすくなります。フェムテックの導入全般については「フェムテック企業導入ガイド|行政の後押しと導入事例・進め方」にまとめています。
Floraの支援:Wellflow
Flora株式会社の「Wellflow」は、従業員向けのヘルスケアアプリと管理職・全社員向けの研修、導入前後を同じ指標で測る効果検証サーベイを組み合わせた健康経営支援サービスです。卵子凍結の補助を導入する企業には、制度の案内と同時に、妊娠・出産に関わる健康知識をアプリと研修で提供し、従業員が自分で判断できる状態をつくる部分を支援します。制度の利用状況やサーベイの結果は個人を特定しない形で集計し、健康経営度調査や東京都の指針への対応の記録として使えます。生理痛体験研修とあわせて、これまでに150社以上に導入されています。
まとめ
卵子凍結は保険適用外で費用が大きく、東京都が2023年から個人向けに助成を始め、女性活躍推進条例の指針でも配慮すべき健康課題の1つに挙げられました。都の助成は18〜39歳の都民が対象で、令和8年度の凍結なら最大24万円です。
企業が補助を設計するときは、対象と上限、人事から切り離した申請経路、不妊治療支援との棲み分け、医療の限界を含む情報提供、通院のための休暇の5つを決めてください。会社が卵子凍結を勧めていると受け取られない案内と、女性の健康支援の全体像の中に置くことが、制度を使われるものにします。
---
**Wellflowの資料請求・お問い合わせはこちら → Wellflow**
よくある質問
卵子凍結の補助は、福利厚生費として扱えますか。
東京都外の従業員には、都の助成は使えませんか。
卵子凍結の補助を導入すると、出産を先延ばしにするよう促していることになりませんか。





