SSBJ基準の第三者保証に備える人的資本データ|2027年3月期までに整える3つのこと

2026年 9月 14日

時価総額3兆円以上のプライム上場企業は、2027年3月期からSSBJ基準にもとづくサステナビリティ情報を有価証券報告書に記載し、その翌年の2028年3月期から第三者保証を受けます。1兆円以上は1年遅れ、5,000億円以上はさらに1年遅れで続きます。保証の範囲は当初2年間は限定され、人的資本の指標がどこまで対象になるかはまだ決まっていません。

それでも、人事と経営企画が今から準備を始める理由があります。保証の対象になったとき、問われるのは数字そのものではなく、数字の出し方です。定義は文書になっているか、元データから開示値まで再現できるか、前年との差を説明できるか。この3つは、保証の範囲が決まってから整えるには時間が足りません。この記事では、保証業務実施者が確かめる順番に沿って、2027年3月期までに整える3つのことをまとめます。

SSBJ基準の保証で何が確かめられるか

第三者保証は、財務諸表の監査と同じ考え方でサステナビリティ情報を確かめる手続きです。金融審議会のワーキング・グループ報告では、保証基準は国際サステナビリティ保証基準(ISSA 5000)と整合させ、保証業務実施者は登録制の法人で、監査法人でなくても要件を満たせば登録できるとされています。制度の枠組みは「SSBJ基準と人的資本開示|2027年3月期からの適用で女性活躍3項目はどう扱われるか」で解説しています。

人的資本の指標について、保証業務実施者が確かめると考えられる点は次のとおりです。

確かめる点具体的な問い
定義の妥当性と一貫性指標の定義は文書化されているか。前年と同じ定義か。変えた場合は影響を説明できるか
母数と分子の抽出条件管理職の範囲、対象期間、出向者や非正規の扱いは明確か
再現性人事システムのデータから開示数値まで、集計の過程を第三者が再現できるか
変動の説明数字が動いた理由を、登用なのか定義変更なのか分けて説明できるか
承認の記録誰が、いつ、何を根拠に数字を承認したか

財務諸表の監査で経理が毎年やっていることを、人事の数字でもやる。準備の中身は、そう言い換えるのがいちばん近いと思います。

整えること1:定義を文書にする

最初に確かめられるのは定義です。女性管理職比率なら、課長級以上という厚生労働省の定義に対して、自社のどの等級からを数えたか。男女間賃金差異なら、賃金に含めた手当の範囲と対象期間。男性育休取得率なら、第1号か第2号か、有期雇用者をどう扱ったか。これらが担当者の頭とExcelの中にしかない状態では、保証業務実施者は確かめようがありません。

指標ごとに、根拠、算出式、法人と従業員の範囲、法令の定義と自社制度の対応表、対象時点、元データの抽出条件、端数処理、改定履歴を1枚に書きます。作り方は「人的資本の指標定義レジストリのつくり方|「何を・どの範囲で数えるか」を社内で固定する手順」にまとめました。

届け先ごとに定義が違う指標は、届け先ごとに定義書を分けます。有価証券報告書の男性育休取得率と健康経営度調査の回答値は分母も期間も違うので、同じ文書に書くと混ざります。定義書が届け先ごとに分かれていれば、同じ指標の数字が有価証券報告書と統合報告書で違っていても、定義の違いとして説明できます。仕組みは「人的資本開示で数値が不一致になる理由|有報・女活法・健康経営度調査の算定範囲と定義差」をご覧ください。

整えること2:元データから開示値まで、たどれるようにする

次に確かめられるのは再現性です。人事システムのどのテーブルから、どの条件で抽出し、どの計算を経て開示値になったか。この経路を第三者がたどれる状態にします。

実務では、次の3点がそろっていれば足ります。

  1. 抽出条件を言葉で書く。 「在籍区分が在籍、かつ等級がM2以上、かつ基準日時点で休職していない」のように、別の人が別のツールで再現できる形にします。関数の中に条件が埋まっているExcelは、再現の証拠になりません。
  2. 元データのスナップショットを残す。 基準日時点の抽出結果を、開示値と一緒に保存します。人事システムは日々更新されるので、後から同じ条件で抽出しても同じ結果になるとは限りません。
  3. 開示値との対応を1行で残す。 開示した数字ごとに、どのスナップショットのどの集計から出たかを台帳に書きます。「有価証券報告書 女性管理職比率 12.4%=スナップショット2026-03-31_在籍者、定義書v2」のような形です。

統合報告書やESG評価機関の質問票に載せた数字も、同じ台帳に入れます。有価証券報告書と統合報告書で同じ指標の数字が違う場合、どちらがどの定義書とスナップショットから出たかが台帳で分かれば、差は説明できます。分からなければ、どちらかが誤りに見えます。

グループ会社の数字は、各社の抽出結果を親会社が集約する経路も残します。子会社ごとに定義書と抽出条件が違えば、親会社の表は同じ指標でも意味の違う数字が並びます。グループでの集計は「有価証券報告書の人的資本を連結・グループで出す|子会社を含めた集計と2026年4月の公表義務拡大」で扱っています。

整えること3:前年との差を、要因に分けて説明する

3つ目は変動の説明です。女性管理職比率が前年から1.7ポイント上がったとき、登用が進んだのか、管理職の定義を変えたのか、組織再編で分母が変わったのか。保証業務実施者は、この内訳を最初に確かめると考えられます。

要因に分けるには、2つの準備が要ります。1つは定義を変えた年に旧定義でも計算しておくこと。定義変更の影響と実際の変化を分けて示せます。もう1つは、結果指標の手前にある過程指標を並べておくことです。女性管理職比率なら、候補者層の女性比率、等級ごとの昇進率の男女差、離職率の男女差。これらが動いていれば、結果指標が動く前でも進捗として説明できます。過程指標の選び方は「女性管理職比率の公表|算出方法・注記の書き方と、数字を上げる前に見るべき3つの指標」で解説しています。

説明は、数字を出す担当者だけでは書けません。取締役会や経営会議で人的資本の指標をいつ、誰が見て、何を判断したかの記録が、ガバナンスの説明になります。議事録に指標名が出てこない状態は、保証の段階で「監督の証拠」を求められたときに困る可能性があります。

2027年3月期までの進め方

対象企業かどうかにかかわらず、次の順で進めるのが現実的です。

時期やること
2026年10月〜12月今年の開示に使った指標の定義書を作る。前年の担当者に抽出条件を聞き取る。届け先ごとの定義の違いを台帳にする
2027年1月〜3月2027年3月期の基準日に向けて、抽出条件とスナップショットの保存手順を決める。承認者を指標ごとに決める
2027年4月〜6月2027年3月期の数字を新しい手順で出す。前年との差を要因に分けて記録する。有価証券報告書の注記に算定方法を書く
2027年7月以降保証の範囲が政令・内閣府令で示された時点で、対象指標の定義書と台帳を保証業務実施者に渡せる状態にしておく

対象外の企業も、この準備は無駄になりません。投資家との対話や取引先からのデータ要請で、定義と算出手順を説明できることは評価されます。任意で早めに保証を受ける企業は、その点で先行します。

よくある失敗

  • 保証の範囲が決まってから始める。 範囲が示されてから定義書を作ると、前年の担当者がいない、旧定義の数字がない、という状態から始めることになります。
  • Excelを証拠と考える。 関数と手作業の転記は、再現性の証拠になりません。抽出条件を言葉にし、スナップショットを残します。
  • 定義を変えた年に、旧定義の数字を残さない。 定義変更の影響と実際の変化が分けられず、前年比較の説明ができません。
  • 人事だけで準備する。 承認の記録と取締役会の監督は、経理・IRと内部監査を巻き込まないと残りません。
  • グループ各社の定義をそろえずに集約する。 親会社の表に、意味の違う数字が並びます。

Floraの支援:再現できる経路を、基盤の中に持つ

Flora株式会社の「CapLead」は、グループ各社の人的資本の数字を、監査に耐える一つの基盤で管理するためのデータ基盤です。指標ごとの定義レジストリで定義を固定して版管理し、各社の投入データを元ファイルの行まで遡れる出典として残し、前年比・外れ値・定義差の整合チェックで、説明できない差だけを担当者に示します。「その数字はどこから」という問いに、いつでも答えられる状態を作ります。

保証に入る前に自社の状態を確かめるなら「第三者保証レディネス・チェックリスト(SSBJ)」を、記載そのものの型は「SSBJの4要素で書く 女性活躍3項目 記載テンプレート」をお使いください。まず30分、貴社グループの開示フローをお聞かせください。

まとめ

第三者保証で確かめられるのは、数字そのものより数字の出し方です。定義が文書になっているか、元データから開示値まで再現できるか、前年との差を要因に分けて説明できるか。この3つを、2027年3月期の基準日までに整えます。

順番は、定義書、抽出条件とスナップショット、要因分解と承認記録です。保証の範囲が示されてから始めるには時間が足りず、対象外の企業でも投資家や取引先への説明でそのまま使えます。

--- CTA: 30分ヒアリング(無償)を申し込む → /ja/caplead

よくある質問