有価証券報告書の人的資本を連結・グループで出す|子会社を含めた集計と2026年4月の公表義務拡大
2026年 9月 14日

持株会社の人事部で、グループ12社の女性管理職比率を集めている。親会社の有価証券報告書には連結子会社ごとの数字が要る。2026年4月からは、これまで対象外だった従業員150人の子会社も自社で公表しなければならない。出向で親会社から子会社に行っている部長は、どちらの会社の管理職として数えるのか。人的資本開示のグループ対応で最初に詰まるのは、この法人の境目です。
この記事では、2026年4月施行の改正女性活躍推進法で何が変わったか、有価証券報告書の「連結子会社それぞれ」という記載の意味、出向者・兼務者・派遣社員の帰属、グループ一括でできることとできないこと、そして集計を回す手順をまとめます。根拠は厚生労働省の解釈事項Q&A(2026年4月改訂)、企業内容等の開示に関する内閣府令、金融庁のパブリックコメント回答です。
2026年4月で何が変わったか:公表は法人ごと、対象は101人以上
改正女性活躍推進法(2025年6月公布、2026年4月1日施行)で、情報公表の義務が常時雇用する労働者101人以上の事業主に広がりました。公表する項目も変わっています。
| 常時雇用する労働者 | 必ず公表する項目 | 加えて公表する項目 |
|---|---|---|
| 101〜300人 | 男女間賃金差異、女性管理職比率 | 職業生活に関する機会の提供、両立に資する雇用環境の整備の計14項目から1項目以上 |
| 301人以上 | 男女間賃金差異(2022年7月から)、女性管理職比率(2026年4月から新たに必須) | 機会の提供から1項目以上、両立から1項目以上 |
初回の公表は、施行後に最初に終了する事業年度の実績を、翌事業年度の開始後おおむね3か月以内に出します。3月末決算なら2027年3月期の実績を、2027年6月末をめどに公表します。改正の全体像は「女性活躍推進法改正2026|公表義務拡大(101人以上)と企業の実務対応」をご覧ください。
グループ対応で押さえておきたいのは、この義務が法人(事業主)ごとにかかることです。101人以上かどうかの判定、一般事業主行動計画の策定と届出、情報公表は、厚生労働省のQ&Aが各事業主に実施を求めると明記しています。純粋持株会社は自社が雇用する労働者だけで判定するので、グループ全体では数千人いても、持株会社自身は対象外ということが起こります。逆に、これまで親会社だけが公表していたグループでは、101人以上の子会社が一斉に対象になります。
「常時雇用する労働者」は雇用形態を問わず、期間の定めなく雇用されている人と、過去1年以上引き続き雇用されている人、または雇入れの時から1年以上の雇用が見込まれる人です。パートや契約社員を含み、国外の事業所で雇う人は含みません。子会社ごとにこの数え方で人数を出すのが、グループ対応の最初の作業です。行動計画の作り方は「一般事業主行動計画とは|女性活躍推進法の策定手順と届出方法」にまとめています。
有価証券報告書の人的資本は「連結子会社それぞれ」。連結合算は任意
有価証券報告書の「従業員の状況」に記載する女性管理職比率・男性育児休業取得率・男女間賃金差異は、提出会社と連結子会社それぞれの数字です。企業内容等の開示に関する内閣府令は、女性活躍推進法や育児・介護休業法にもとづく公表をしない会社については記載を省略できると定めています。金融庁のパブリックコメント回答では、公表義務のある子会社は重要性にかかわらず記載し、公表義務のない小規模な子会社や海外子会社は省略できる、公表義務がある会社は実際の公表前でも有価証券報告書に記載する、と整理されています。主要な連結子会社以外の分は「提出会社の参考情報」の「その他の参考情報」に回すこともできます。
連結ベースの合算値は義務ではありません。金融庁の記述情報の開示に関する原則は、多様性に関する指標について連結ベースでの開示に努めるべきとし、開示ガイドラインは任意の追加情報を追記できるとしています。合算値を載せる場合は、集計した会社の範囲と、女性活躍推進法の算出方法と違う点を明記します。金融庁の好事例集(2026年)も、海外子会社を含めた連結ベースの開示を有用としたうえで、法と異なる定義や計算方法を使う場合はその内容を具体的に書くことを求めています。
2026年4月から101人以上の子会社が公表を始めると、親会社の有価証券報告書に載せる連結子会社の数が一気に増えます。2027年3月期の有価証券報告書では、前年まで省略できていた子会社の行が並びます。各社の定義がそろっていないと、同じ表の中で数字の意味が違うことになります。同じ指標が届け先ごとに違う数字になる仕組みは「人的資本開示で数値が不一致になる理由|有報・女活法・健康経営度調査の算定範囲と定義差」で整理しています。
法人の境目で迷う人:出向者・兼務者・派遣社員
グループで集計すると、必ず「この人はどちらの会社で数えるのか」が出てきます。厚生労働省のQ&Aは、出向者について2段階の考え方を示しています。
まず人数の判定です。出向中の労働者は、原則として、その人の生計を維持するのに必要な主たる賃金を負担する会社の常時雇用する労働者として数えます。出向先が出向元に負担金を払っている場合も、実際に賃金を払っている会社で数えるのが原則です。
次に項目ごとの帰属です。労務提供を前提としない項目は出向元、労務提供を前提とする項目(労働時間、休日、休暇など)は出向先で数えます。Q&Aの整理では次のとおりです。
| 出向元で数える項目 | 出向先で数える項目 |
|---|---|
| 女性管理職比率、採用した労働者に占める女性の割合、労働者に占める女性の割合、継続勤務年数の男女差、係長級・役員に占める女性の割合 | 平均残業時間、男女別の育児休業取得率、有給休暇取得率 |
出向元と出向先で合意すれば別の扱いもできますが、同じ人を両方で数えない(ダブルカウントしない)ことが条件です。男女間賃金差異は、企業の実情に応じて扱ってよいとされています。育児・介護休業法にもとづく男性育休取得率の公表は、Q&Aの整理では出向先の項目です。
有価証券報告書の従業員数は就業人員数で、臨時従業員が相当数いる場合は年間平均の雇用人員を外書きします。出向者を社外への出向は除き社外からの受入は含めるという扱いは法令の定義ではなく実務の慣行なので、脚注に算定方法を書いておくのが適切です。
派遣社員は、女性活躍推進法の公表でも男女間賃金差異でも派遣元で数えます。派遣先の子会社が自社の数字に含めることはありません。計算は「男女間賃金差異 計算ツール」で確かめられます。
この帰属を子会社ごとに文書にしておかないと、親会社の人事が集計するたびに同じ問い合わせが各社に飛びます。出向者一覧に「人数は甲社、管理職比率は甲社、育休取得率は乙社」と書いた帰属表を1枚作り、毎年更新するのが実務的です。
グループ一括でできること、できないこと
雇用管理がグループで一体になっている場合、厚生労働省のQ&Aは一定の範囲でグループ単位の実施を認めています。採用から配置、育成、登用までをグループ全体で行っているようなケースです。
| 手続き | グループ一括 | 備考 |
|---|---|---|
| 状況把握・課題分析 | 雇用管理が一体的な場合は、グループ全体での実施を各社の実施とみなせる | 男女間賃金差異は必ず各社で把握する |
| 一般事業主行動計画の策定・周知・公表 | 同上 | 届出は各社 |
| 情報公表 | 同上。基幹的な職種だけグループで管理している場合は、その職種の情報をとりまとめ企業が公表できる | それ以外の労働者の情報は各社が公表。男女間賃金差異は常に各社 |
| 行動計画の届出、えるぼし等の認定申請 | できない | 常に各事業主 |
| 育児・介護休業法の男性育休取得率公表 | 各事業主 | 300人超の法人ごと |
男女間賃金差異だけは、雇用管理が一体的でも個々の事業主が公表し、状況把握も各社で行います。グループ一括の可否を検討するときは、まずこの例外から決めると整理が早くなります。賃金差異の公表実務は「男女間賃金差異 公表義務化|2026年改正の実務」をご覧ください。
人的資本開示の連結・グループ集計を回す5つの手順
- 法人リストに該当判定を付ける。 子会社ごとに常時雇用する労働者数を出し、101人以上か、301人以上か、300人超(育休公表)か、有価証券報告書の連結子会社かを1行で並べます。海外子会社は女性活躍推進法の対象外ですが、連結ベースの任意開示に含めるかは別に決めます。
- 定義書をグループで共通化する。 女性管理職比率の管理職の範囲(課長級以上、役員を除く)、男女間賃金差異の3区分と賃金の範囲、男性育休取得率の第1号・第2号を、グループで一つに決めます。子会社ごとに等級制度が違う場合は、各社の等級を共通の管理職定義に対応づける表を作ります。定義の考え方は「女性管理職比率の公表|算出方法・注記の書き方と、数字を上げる前に見るべき3つの指標」で解説しています。共通化の出発点として、届け先ごとの定義を並べた「人的資本 開示指標 定義対照表 2026」が使えます。
- 出向者・兼務者の帰属表を作る。 人数、管理職比率、育休取得率、賃金差異のそれぞれについて、どの法人で数えるかを人ごとに決め、両社で共有します。
- 締切から逆算した日程を各社に渡す。 3月末決算なら、女性活躍推進法の公表は6月末めど、有価証券報告書は6月下旬の提出です。子会社のデータ提出は5月中旬、親会社の確認と差し戻しは5月下旬、というように逆算します。各社の担当者名と提出状況を一覧にして、督促と確認の往復を減らします。
- 承認の記録を残す。 どの数字を、誰が、いつ確認したかを法人ごとに残します。定義を変えた年はその内容と影響を記録し、翌年の前年比較で使います。第三者保証を見据える企業では、この記録がそのまま保証対応の準備になります。考え方は「SSBJ基準と人的資本開示|2027年3月期からの適用で女性活躍3項目はどう扱われるか」をご覧ください。
この作業量は、グループの法人数に比例します。Flora株式会社の試算では、連結子会社12社程度のグループで、集計・確認・差し戻しにグループ全体で年間約7,400時間かかります(Flora試算。持株会社と各子会社で作業に関わる担当者を合わせた概算で、実際の工数は各社の体制によります)。持株会社の人事部門だけを数えると小さく見えますが、実際には各社の担当者が自社分の集計と差し戻し対応に時間を使っています。
よくある失敗
- 持株会社の従業員数でグループ全体の該当判定をする。 判定は法人ごとです。持株会社が対象外でも、子会社が対象になります。
- 親会社の定義で子会社の数字を作る。 計算方法は厚生労働省の算出方法に従いますが、数える範囲は各社の労働者です。出向者の帰属を決めずに集計すると、同じ人が2社で数えられます。
- 有価証券報告書に連結合算値だけを載せる。 有価証券報告書の欄は提出会社と連結子会社それぞれです。合算値は任意の追加情報として、範囲を明記して載せます。
- 男女間賃金差異をグループ一括で公表する。 雇用管理が一体的でも、賃金差異は各事業主が公表します。
- 子会社の初回公表を親会社と同じ時期と思い込む。 初回は施行後に最初に終了する事業年度の実績です。決算期が親会社と違う子会社は、期限も違います。
Floraの支援:法人ごとの公表義務を自動で判定する
Flora株式会社の「CapLead」は、グループ各社に散在する人的資本の数字を一つの基盤で管理するデータ基盤です。法人ごとに公表義務の対象・非対象を自動で判定し、101人以上に広がった項目を各社に漏れなく表示します。各社の提出状況をデータ待ち・確認中・承認済で一覧にし、指標ごとの定義レジストリで「何を・どの範囲で数えるか」をグループで固定します。10人未満の集計は画面にも出力にも出さず、個人が特定されない設計です。
グループの法人数と開示先が増えるほど、確認の往復は増えます。まず30分、貴社グループの開示フローをお聞かせください。
まとめ
2026年4月から、女性活躍推進法の情報公表は常時雇用101人以上の法人ごとに求められ、女性管理職比率と男女間賃金差異が必須になりました。有価証券報告書は提出会社と連結子会社それぞれの数字を記載し、連結合算は範囲を明記した任意の追加情報です。出向者は主たる賃金を負担する会社で人数を数え、項目ごとに出向元・出向先で帰属を分けます。
グループ一括で実施できるのは、雇用管理が一体的な場合の状況把握・行動計画・情報公表に限られ、届出・認定申請・男女間賃金差異は常に各社です。法人リストの該当判定、共通の定義書、出向者の帰属表、逆算した日程、承認記録の5つがそろえば、子会社が増えても集計は回ります。
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よくある質問
純粋持株会社で従業員は50人です。グループ全体では3,000人いますが、公表義務はありますか。
親会社から子会社に出向している部長は、どちらの女性管理職比率に入れますか。
海外子会社の数字も有価証券報告書に載せる必要がありますか。





