男性育休取得率の算定範囲|届け先ごとに数字が変わる仕組みと注記の書き方

2026年 9月 14日

人事が出した男性育休取得率は85%。IRが有価証券報告書に載せたのも85%。ところが健康経営度調査の回答は56%で、くるみんの申請書にはまた別の数字が入っている。同じ会社の同じ年度で、男性育休取得率は4つ存在します。

数字が違うのは、誰かが間違えたからではありません。育児・介護休業法の公表、有価証券報告書、健康経営度調査、くるみん認定は、それぞれ分母に誰を入れるか、分子に何を数えるか、どの期間で切るかを別々に決めています。この記事では、届け先ごとの算定範囲を並べ、1社の同じデータから4つの数字が出る計算例を示し、届け先ごとに添える注記の文例をまとめます。

法の公表値そのものの出し方は「男性育休取得率50.9%と300人超企業の公表義務|数字の読み方と自社の出し方」で解説しています。この記事は、その数字が届け先によってどう変わるかに絞ります。

育児・介護休業法の公表値:第1号と第2号

常時雇用する労働者が300人を超える企業は、2025年4月から男性の育児休業取得率を年1回公表しています。公表する割合は、育児・介護休業法施行規則第71条の6が定める2つのうちどちらかです。

第1号第2号
分子育児休業等をした男性労働者の数育児休業等をした男性労働者の数 + 育児を目的とした休暇制度を利用した男性労働者の数
分母配偶者が出産した男性労働者の数同じ
育児休業等に含むもの育児休業、産後パパ育休(出生時育児休業)、これらに準ずる措置による休業同左に加えて、配偶者出産休暇や育児目的の失効年休積立制度など

数える人のルールは厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」に沿います。分母は公表前事業年度に配偶者が出産した男性で、雇用形態を問いません。法律上育児休業の対象にならない有期雇用者は除外でき、労使協定で除外した人は含めます。分子は公表前事業年度に育児休業等を開始した人で、その人の配偶者がいつ出産したかは問いません。同じ子について複数回取得しても1人です。公表前事業年度の末日に退職している人は、分母・分子とも除きます。割合は小数第2位以下を切り捨て、分母が0人なら「-」と書きます。

分母は「その年度に子が生まれた人」、分子は「その年度に育休を開始した人」なので、前年度末に生まれた子の育休を今年度に始めれば分子だけが増えます。取得率が100%を超えるのはこのためで、それ自体は誤りではありません。制度の全体像は「男性育休の義務化とは|300人超の公表義務と、企業の対応手順」をご覧ください。

有価証券報告書は、法の公表値を算定方法とともに

有価証券報告書の「従業員の状況」に記載する男性育児休業取得率は、育児・介護休業法にもとづいて公表した割合です。企業内容等の開示に関する内閣府令は、提出会社とその連結子会社それぞれについて、施行規則第71条の6各号のいずれかの割合を記載すると定めています。法にもとづく公表をしない会社の分は省略でき、主要な連結子会社以外の分は「その他の参考情報」に回すこともできます。第1号と第2号のどちらで算出したかは、企業内容等の開示に関する留意事項(開示ガイドライン)にもとづき明示します。

注記の実務は3つの型に分かれます。100%を超えたときに年度ずれの人数を書く型、どの方式かを条文番号とともに書く型、数えた範囲や雇用区分を書く型です。上場企業の有価証券報告書では、次のような注記が一般的です。

> 「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」第71条の6第1号における育児休業等の取得割合を算出したものである。

2025年3月期以前の書類では「第71条の4」と書かれていることがあります。2025年4月の施行規則改正で介護関係の条文が挿入され、条番号が変わりました。内容は同じです。

有価証券報告書の数字が女性活躍推進法のデータベースや自社サイトの公表値と一致していない場合、まず疑うのは対象年度のずれと、第1号・第2号の取り違えです。

健康経営度調査:正社員のみ、出産年度、1か月以上

健康経営度調査(大規模法人部門)は、男性育休を独自の方法で尋ねます。2026年度調査票のQ42では、前年度(2025年4月〜2026年3月)に配偶者・パートナーが出産した男性正社員の人数と、そのうち回答時点までに連続1か月以上の育児休業を取得した人数を記入します。産後パパ育休は含み、配偶者出産時の特別休暇は除き、社内で育児休業として扱っているものだけを数えます。同じ人が期間中に複数回該当しても1人です。

法の公表値との違いは3点です。正社員だけを数えること、子が生まれた年度で分母と分子をそろえること、連続1か月以上の取得に限ることです。この数え方では取得率は100%を超えず、短期の取得者は分子に入りません。法の公表値が85%でも、健康経営度調査の回答値が50%台になるのは自然な結果です。

健康経営度調査の設問構成や番号は年度ごとに変わります。回答する年度の調査票で確認してください。

くるみん認定:計画期間で数える

くるみん認定の男性の育児休業等取得率は、一般事業主行動計画の計画期間を対象に算定します。次世代育成支援対策推進法施行規則は、計画期間に配偶者が出産した男性労働者の数に対する、計画期間に育児休業等をした男性労働者の数の割合と定めています。年1回の公表が事業年度単位であるのに対し、くるみんは計画期間(2年以上5年以下)の累計で見るため、同じ社内データでも対象期間が違います。端数は小数第1位以下を切り捨て、認定申請時にすでに退職している人は分母・分子とも除きます。

2025年4月1日以降の認定基準では、男性の育児休業等取得率はくるみんが30%以上(育児目的休暇を含めた割合なら50%以上)、プラチナくるみんが50%以上(同70%以上)、トライくるみんが10%以上(同20%以上)です。2027年3月31日までは旧基準(くるみん10%、プラチナ30%、トライ7%)での申請も認められています。くるみんとプラチナくるみんは、この割合を厚生労働省の「両立支援のひろば」で公表していることも要件です。

くるみんの申請書に、法の公表値をそのまま転記すると対象期間が合いません。逆に、くるみんの計算値を年1回の公表に使うと、事業年度ではなく計画期間の数字を出すことになります。

男性育休取得率の算定例:同じデータから4つの数字が出る

ある企業の2025年度(2025年4月〜2026年3月)のデータを、届け先ごとに計算します。

社内データ人数
2025年度に配偶者が出産した男性40人(うち正社員36人、有期契約4人)
2025年度に育児休業等を開始した男性34人(うち3人は2024年度末に生まれた子の育休)
育児目的休暇のみを利用した男性3人
2025年度に配偶者が出産した男性正社員のうち、連続1か月以上の育児休業を取得した人20人
くるみん用に加える、計画期間前半(2024年度)の実績配偶者が出産した男性38人、育児休業等をした男性29人
届け先計算取得率
育児・介護休業法の公表(第1号)34 ÷ 4085.0%
育児・介護休業法の公表(第2号)(34+3)÷ 4092.5%
有価証券報告書法の公表値と同じ。第1号なら85.0%
健康経営度調査(Q42)20 ÷ 3655.5%
くるみん認定(計画期間2年、前年度分を加算)(34+29)÷(40+38)= 63 ÷ 7880%(小数第1位以下切り捨て)

4つの数字はどれも正しく、どれも同じデータから出ています。第1号の85.0%と第2号の92.5%は同じ年度の同じ人から、健康経営度調査の55.5%は正社員と1か月以上という条件から、くるみんの80%は2年分の累計から出ています。並べたときに違って見えるのは定義の違いであって、集計の誤りではありません。計算は「男性育休取得率 計算ツール」で確かめられます。届け先ごとの分子・分母・対象期間を1枚で見比べるなら「男性育休取得率 算定範囲 早見表」をお使いください。

社内で数字を渡すときは、届け先の名前だけでなく「第1号」「正社員・1か月以上」「計画期間」のどれかを添えてください。それがないと、受け取った側が別の届け先に転記します。

届け先ごとの注記の文例

有価証券報告書。 算定方法を条文番号で示し、100%を超える年は年度ずれの人数を書きます。「2025年度に育児休業を取得した男性労働者34人には、2024年度に配偶者が出産した男性労働者3人を含む」。

女性活躍推進法のデータベース・自社サイト。 公表する割合とあわせて、算定期間である公表前事業年度の期間と、第1号・第2号のどちらかを明示します。厚生労働省が公表文の必須要素として示している3点です。

健康経営度調査の回答値を社外資料に載せる場合。 「正社員のうち、配偶者が出産した年度に連続1か月以上の育児休業を取得した者の割合」と定義を添えます。法の公表値と並べるときは、2つの数字の定義が違うことを1行で書きます。

統合報告書・サステナビリティレポート。 法の公表値を載せるなら第1号・第2号を、平均取得日数を載せるなら分母(取得者全員か、1か月以上取得者か)を書きます。前年から定義を変えた場合は、変更の内容と旧定義での数字を注記します。

公表文のひな形と注記の3つの型は、「男性育休取得率 公表ガイド」にA4 2ページでまとめています。

よくある誤り

  • 分母を男性従業員全員にする。 分母は配偶者が出産した男性です。全員を分母にすると取得率は一桁になります。
  • 分子を制度の利用申請者にする。 数えるのは育児休業等を開始した人です。申請しただけで取得していない人は入りません。
  • 法の公表値を正社員だけで出す。 雇用形態を問いません。正社員に限るのは健康経営度調査の数え方です。
  • 産後パパ育休と育児休業を別々に数える。 育児休業等として1人です。同じ子について2回に分けて取得しても1人です。
  • 有価証券報告書に、健康経営度調査の回答値を写す。 定義が違います。有価証券報告書には法にもとづく公表値を記載します。
  • 年度途中で退職した人を分母に残す。 公表前事業年度の末日に退職している人は、分母・分子とも除きます。

Floraの支援:届け先ごとの数値と根拠を一覧にする

男性育休取得率は、人的資本開示の3項目の中で最も定義差の大きい指標です。届け先ごとに違う数字が出ること自体は問題になりません。問題は、どの数字をどの定義で出したかが社内で追えなくなることです。

Flora株式会社の「CapLead」は、グループ各社の人的資本の数字を一つの基盤で管理し、指標ごとの定義レジストリと、届け先ごとに「どの数値を・どの根拠で」出したかを示す開示先マップを持ちます。法の公表値と健康経営度調査の回答値の差は算定範囲の違いとして注記され、定義で説明できない差だけが確認対象として担当者に示されます。他の指標で同じことが起きる仕組みは「人的資本開示で数値が不一致になる理由|有報・女活法・健康経営度調査の算定範囲と定義差」にまとめています。

まとめ

男性育休取得率は、育児・介護休業法の公表(第1号・第2号)、有価証券報告書、健康経営度調査、くるみん認定で算定範囲が違います。法の公表値は雇用形態を問わず「育休を開始した年度」で数えて100%を超えることがあり、健康経営度調査は正社員だけを「子が生まれた年度」で数えて1か月以上の取得に限り、くるみんは計画期間の累計で見ます。

同じデータから4つの数字が出るのは仕組みの結果です。届け先ごとに定義を添えて渡し、注記で定義を書き、定義で説明できない差だけを確認する。第三者保証が視野に入る企業では、この整理がそのまま保証対応の土台になります。保証を見据えた考え方は「SSBJ基準と人的資本開示|2027年3月期からの適用で女性活躍3項目はどう扱われるか」をご覧ください。

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