THP指針とは|2026年10月の改正で加わった二次予防と、会社が見直すこと

2026年 10月 29日

THP指針とは、厚生労働省が公表する「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」の通称で、会社が従業員の健康づくりをどう進めるかを示したものです。労働安全衛生法第69条で事業者の努力義務とされている健康保持増進措置について、同法第70条の2にもとづいて国が進め方を定めています。この指針が2026年10月19日に改正され、同じ日から適用されました。これまでの指針は、運動や食生活などの生活習慣を整えて病気を防ぐ一次予防が中心でした。今回の改正で、がん検診や精密検査の受診勧奨、女性特有の健康課題の検査と専門医への受診勧奨といった二次予防が、健康保持増進措置として初めて書き込まれています。この記事では、何が変わったかを新旧で確認し、健康診断の委託契約や休暇制度など、人事が見直すことを整理します。

THP指針とは

THPはトータル・ヘルスプロモーション・プランの略で、1988年に最初の指針が公表されて以来、改正を重ねてきました。今回の改正は「健康保持増進のための指針公示第13号」です。

項目内容
正式名称事業場における労働者の健康保持増進のための指針
根拠労働安全衛生法第70条の2第1項(指針の公表)、第69条第1項(事業者の努力義務)
今回の改正公示第13号、2026年10月19日公示・同日適用
前回の改正公示第12号、2026年2月10日(高年齢者の指針の新設に合わせた参照先の変更のみ)
主な構成趣旨/基本的考え方/推進に当たっての基本事項/推進方法(推進体制、措置の内容)/留意事項/定義

努力義務なので、守らなかったことへの罰則はありません。それでも、健康経営の取り組みを社内で説明するときや、健康診断の委託先と契約を見直すときに、国の考え方を示す根拠として使われる文書です。

THP指針の2026年10月改正はどう決まったか

改正のもとになったのは、厚生労働省の「事業場における労働者の健康保持増進の在り方に関する検討会」です。2026年4月24日から8月5日までに4回開かれ、8月21日に報告書がまとまりました。9月28日の労働政策審議会安全衛生分科会に報告され、10月19日の公示に至っています。

報告書は、がん検診の推進などを通じた「攻めの予防医療」によって健康寿命を延ばし、社会保障の担い手を増やすという考え方を背景に挙げています。同時に、業務が原因とは限らない病気の二次予防について、「必ずしも事業者のみが推進の責務を負うものではない」としたうえで、健康への投資が経営にも資するという理解のもとで、事業場の実情に応じて進めることが適当だとしています。新しい義務を課すというより、会社が取り組むときの方向をはっきりさせた改正です。

何が変わったか:主な変更点

新旧対照表で確認できる主な変更は次のとおりです。

箇所改正前改正後
趣旨(対象)全ての労働者就業形態にかかわらず全ての労働者
趣旨(予防)一次予防が中心一次予防に加え、健康診断等による早期発見・早期治療を「二次予防」と定義
趣旨(経営)労働生産性向上の観点から重要「健康経営」の語が入り、健康保持増進を将来の収益性を高める投資として位置づけ
趣旨(データ)なしPHR(生涯の保健医療情報)の把握を労働者に促すことも考えられると追加
基本的考え方なしがん、女性特有の健康課題、歯科疾患、骨粗しょう症、眼科疾患を「がん等」と定義し、二次予防も取り組むことが望ましいと明記
措置の内容健康指導/その他健康教育(新設)/健康指導/二次予防に関する取組(新設)/その他
事業場外資源医療保険者との連携など地域・職域連携推進協議会の情報活用、小規模事業場での社外の健康支援サービスの利用を追加
留意事項なし二次予防の精度管理、治療と就業の両立支援指針との関係を追加

基本的考え方に挙がった女性特有の健康課題は、月経不順、月経困難症、過多月経、月経前症候群、更年期障害などです。改正前の指針で「女性」という語が出てくるのは統計の説明の1か所だけでした。

一方で、メンタルヘルスケアの項は文言の変更がなく、項目番号が繰り下がっただけです。高年齢者に関する記述も、2026年2月の第12号で入った「高年齢者の労働災害防止のための指針」への参照のまま変わっていません。

二次予防として会社に求められること

新設された「二次予防に関する取組」は、対象、方法、効果的な取組の3つに分かれています。

対象は、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんの5つのがんの検診と、その結果に基づく精密検査の受診勧奨です。あわせて、女性特有の健康課題、歯科疾患、骨粗しょう症、眼科疾患などの検査等と、その結果に基づく専門医への受診勧奨が挙がっています。同日の通達(基発1019第52号)は、この「検査等」に問診による健康課題の把握も含むとしています。2026年4月に一般健康診断の標準的な問診票に加わった女性特有の健康課題の質問は、まさにこの形です。詳しくは「健康診断の問診に女性特有の健康課題の質問|2026年追加の1問と人事の準備」をご覧ください。

方法としては、健康診断の機会を使った検診の受診機会の提供と、従業員が住む市町村の検診の受診勧奨や受診のための休暇の付与が示されています。通達は、この休暇に会社の特別休暇だけでなく、検診を受けたい人が有給休暇を取りやすいよう配慮することも含むとしています。

効果的な取組として、指針は次のものを並べています。

  • 啓発パンフレットの配布や社内掲示、全従業員へのメールや社内通達
  • 健康診断の実施機関への精密検査の受診勧奨の業務委託
  • 医療保険者の健診や、自治体の検診・健康相談の案内
  • がん検診等の費用助成、受診のための特別休暇の付与
  • 治療と就業の両立支援の取組と、その周知

女性のがん検診の受診率が伸びにくい理由と会社の打ち手は「女性のがん検診受診率はなぜ低いのか?企業ができる受診率向上策と補助制度」で扱っています。

人事が見直すこと

改正を受けて、次の順に社内の仕組みを確認しておくと、指針に沿った説明ができるようになります。

  1. 健康診断の委託契約。 通達は、精密検査の受診勧奨を健診機関に委託する場合、有所見者の選定基準、勧奨の方法と時期、勧奨後の受診状況の確認方法、事業者への報告事項、個人情報の扱いを委託内容として検討することが望ましいとしています。健診機関には精度管理を求め、精度管理を適切に行う機関を選ぶことも挙がっています。
  2. 検診のための休暇。 特別休暇を設けるか、少なくとも年次有給休暇を検診に使いやすくします。
  3. 健康教育の中身。 新設の「健康教育」は、検診の意義や科学的根拠、結果に応じた精密検査の必要性、使える自治体や医療保険者の検診を教育内容に挙げています。通達は、意義の理解に偽陽性や過剰診断などの不利益の理解も含むとし、公的機関のリーフレットの活用を勧めています。社内研修の組み立ては「企業のヘルスリテラシー研修とは?」が参考になります。
  4. 医療保険者との連携。 健康保険組合などが実施する検診や保健事業の情報を入手し、従業員に案内します。報告書は、短時間で働く人など医療保険者の検診の対象外の人には、自治体のがん検診が使えることを示すよう求めています。
  5. 治療と就業の両立支援。 指針の留意事項に、両立支援指針(令和8年厚生労働省告示第28号)にもとづいて必要な措置を講じることが望ましいと加わりました。制度の作り方は「治療と仕事の両立支援|制度のつくり方と両立支援プランの実務」にまとめています。

見落としやすい点

義務になったと受け取る。 指針が示すのは努力義務の進め方で、報告書も二次予防は事業者だけが責務を負うものではないとしています。義務化として社内に説明すると、現場の反発を招いたり、逆に最低限の対応で済ませたりしやすくなります。

検診の結果を本人の同意なく集める。 健康指導の項に加わった精密検査の受診勧奨は、「労働者本人の同意を得て検査結果を把握した場合」の取組として書かれています。がん検診の結果は、法定の健康診断の結果とは扱いが違います。同意の取り方と、誰がどこまで見るかを先に決めておきます。

正社員だけを対象にする。 趣旨に「就業形態にかかわらず」が加わりました。短時間で働く人や有期契約の人への案内が抜けていないか確認します。

数字を取らずに終わる。 報告書は、企業規模や地域ごとのがん検診等の取組状況を、国が事業所調査で追うべきだとしています。社内でも、検診の受診率と精密検査の受診率を年ごとに見られるようにしておくと、施策の効果を説明しやすくなります。指標の組み立ては「健康経営の効果測定|何を測り、いつ比べるかの設計」をご覧ください。

健康経営との関係と、Floraの支援

改正後の指針は、健康経営を、将来的に収益性を高める投資として健康管理を経営的視点から考える取り組みとして本文に取り上げました。報告書は、経済産業省が進める健康経営との連携を通じて、予防に取り組む企業の見える化や社会的評価の向上を図るべきだとしています。健康経営の取り組みを進めている会社にとっては、社内の説明に使える根拠が一つ増えたことになります。

女性特有の健康課題は、本人が不調を当たり前と思って受診しないまま働き続けることが多い分野です。FloraのWellflowは、月経や更年期について従業員が学び、相談し、必要なときに受診につながるための法人向けサービスで、管理職向けの研修や匿名のサーベイによる職場の状況把握も含みます。指針の「健康教育」と「専門医への受診勧奨」を、女性の健康の分野で形にしたいときにご相談ください。

まとめ

THP指針は、2026年10月19日の公示第13号で改正され、同日から適用されました。がん検診と精密検査の受診勧奨、女性特有の健康課題などの検査と専門医への受診勧奨が二次予防として加わり、健康教育の新設、健康経営やPHRへの言及、就業形態にかかわらない対象の明確化、両立支援指針との関係づけが行われています。メンタルヘルスと高年齢者に関する記述は変わっていません。

人事が見直すのは、健康診断の委託契約(精密検査の受診勧奨と精度管理)、検診のための休暇、健康教育の中身、医療保険者との連携、両立支援の5つです。どれも努力義務ですが、健康経営の説明と委託先との契約に、そのまま使える内容です。

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