健康診断の問診に女性特有の健康課題の質問|2026年追加の1問と人事の準備
2026年 10月 29日

健康診断の問診に加わった女性特有の健康課題の質問とは、厚生労働省が示す一般健康診断の標準的な問診票に、2026年4月28日の通知で追加された1問のことです。月経困難症や更年期障害などで職場において困っていることがあるかを「はい」「いいえ」で尋ね、「はい」と答えた人には健診の担当医が専門医への受診を勧めます。回答は任意で、会社に実施の義務もありません。それでも、委託先の健診機関がこの問診を始めれば、従業員は健診の場で自分の不調に気づき、受診を勧められたあとで会社に相談してくる可能性があります。この記事では、追加された質問の中身、回答が会社に届かない仕組み、厚生労働省の事業者向けマニュアルが会社に求めている準備を順に確認します。
健康診断の問診に追加された「女性特有の健康課題」の質問とは
追加されたのは、標準的な問診票(別添1)のNo.32です。質問文と選択肢は次のとおりです。
> 女性特有の健康課題(月経困難症、月経前症候群、更年期障害など)で職場において困っていることがありますか。 > ①はい ②いいえ
この問診票は、労働安全衛生法にもとづく定期健康診断と特定健康診査を同時に行う場合の「標準的な問診票」で、法令で様式が決まっているものではありません。改正後の問診票は3つの区分に分かれました。
| 区分 | 内容 | 回答の扱い |
|---|---|---|
| 区分1 | 既往歴、業務歴及び自他覚症状(労働安全衛生法に基づく項目) | 就業上の措置のため、健診機関から事業者に提出 |
| 区分2 | 服薬歴、喫煙歴及び一般的な健康に関する質問項目 | 本人が同意した場合に事業者に提出 |
| 区分3 | 女性特有の健康課題に係る質問(No.32) | 個々の回答は事業者にも保険者にも提供しない |
健診機関向けマニュアル(2026年1月19日公表)は、この質問を「労働安全衛生法で定められた必須項目ではなく、回答は受診する労働者の任意である」と位置づけ、目的を「女性労働者本人の健康課題への気づきを促し、セルフケアを支援するもの」としています。会社の健康診断で何が法定項目かは「会社の健康診断とは|義務・対象者・費用負担を人事担当者向けに解説」にまとめています。
決まるまでの経緯と、追加された理由
この質問は、2023年6月の女性版骨太の方針で「事業主健診に係る問診に、月経困難症、更年期症状等の女性の健康に関連する項目を追加する」とされたことから検討が始まりました。厚生労働省の「労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会」で議論され、次の順で形になっています。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2023年12月5日 | 検討会の第1回 |
| 2024年7月19日 | 第5回で、2問・3択(「どちらとも言えない」を含む)の事務局案 |
| 2024年11月1日 | 中間とりまとめ。1問・2択で、個々の回答は事業者に提供しないと整理 |
| 2025年12月24日 | 検討会の報告書 |
| 2026年1月19日 | 健診機関向け・事業者向けのマニュアルを公表 |
| 2026年4月28日 | 基発0428第14号・保発0428第8号で問診票(別添1)を改正し、No.32を追加 |
第5回の案にあった「職場において相談したいこと(配慮してほしいこと)がありますか」という2問目は、最終形には残りませんでした。
追加の根拠として検討会に出された研究班の調査(立石班、2023年12月にインターネット調査パネルの就業中の女性18〜69歳を対象、解析対象5,626名)では、現在月経がある3,332名のうち76.1%が月経に関することで、40歳以上の3,370名のうち88.1%が更年期に関することで、医療機関を受診したことがありませんでした。同じ調査で、月経困難症などの症状がある1,212名のうち24.7%が「支援や配慮が必要だが受けられていない」と答えています。研究班自身が「日本人の代表制を持たせたデータではない」と注記している点は、引用するときに添えてください。
その後、2026年10月19日に適用された「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」の改正(公示第13号)で、女性特有の健康課題に係る検査等と専門医への受診勧奨が、二次予防として指針に初めて書き込まれました。同日の通達(基発1019第52号)は、この「検査等」に問診による健康課題の把握も含むとし、上の2つのマニュアルを参照するよう求めています。改正の全体は「THP指針とは|2026年10月の改正で加わった二次予防と、会社が見直すこと」で扱っています。
なお、2026年4月28日に公布された労働安全衛生規則の改正(2027年4月1日施行)は、血清クレアチニン検査の追加や喀痰検査の削除などで、女性の質問とは別の改正です。
回答は会社に届かない:情報の流れ
人事が最初に押さえておくべきなのは、この問診の結果を会社が見られないことです。健診機関向けマニュアルは、「①はい」と回答した事実を含めた回答内容と、専門医への受診勧奨の有無は「労働者本人のみが把握し、健診機関から事業者へ直接提供されることはない」としています。
| 情報 | 会社が受け取れるか | 条件 |
|---|---|---|
| 個々の回答(はい・いいえ) | 受け取れない | 本人が自分から申し出た場合のみ |
| 受診勧奨を受けたかどうか | 受け取れない | 同上 |
| 「はい」と答えた人数の集計 | 受け取れる | 健診機関との事前の取り決めがあり、受診者が10人以上の場合 |
集計にも制約があります。問診票には「ご自身の結果についてこの集計の対象とされることを希望しない場合はチェックを入れてください」という欄があり、本人が外れることを選べます。事業者向けマニュアルは、労働者数が10人未満など個人が特定されやすい場合には、会社から健診機関に集計情報を求めてはいけないとしています。委託先の健診機関が複数ある場合も、1つの健診機関あたりの受診者が10人未満なら同じ扱いです。
健診の担当医が行うのは、必要に応じた情報提供と、産婦人科など専門医への早期受診の勧奨です。勧奨は口頭で伝えるのが原則で、紹介状の発行や受診の追跡はせず、就業上の措置の必要性も検討しません。会社側から見ると、健診のあとに起きることは、本人が受診するかどうかと、会社に相談するかどうかの2つだけです。
事業者向けマニュアルが求める5つの準備
厚生労働省の「女性特有の健康課題に関する問診を活用した女性の健康管理支援実施マニュアル~事業者向け~」は、会社がこの問診を活用する手順を示しています。どれも義務ではなく、望ましい対応として書かれています。
- 基本方針を表明する。 経営トップが女性の健康支援に取り組む姿勢を「基本方針」として示し、全従業員に周知します。マニュアルには文例があります。
- 衛生委員会等で労使が話し合う。 相談しやすい職場風土のための体制、相談時の個人情報の扱い、相談があったときの対応手順と支援制度を話し合います。専門医の診断書をどう扱うかも、あらかじめ決めておくことが望ましいとされています。
- 管理職研修と全従業員向けの研修を行う。 マニュアルは管理職研修を「最重要課題の一つ」と位置づけ、医学的な基礎知識、仕事への影響、関連法令、社内制度と相談窓口、ハラスメントと受け取られない声かけ、個人情報の扱いを内容に挙げています。
- 相談窓口を明確にする。 人事労務部門、産業保健スタッフ、外部のEAPなど複数の窓口を設け、従業員が選べるようにします。
- 休暇と勤務の制度を整える。 生理休暇(労働基準法第68条)は日数を限定できず、半日や時間単位でも請求できます。マニュアルは「ウェルネス休暇」などの名称変更も有効としています。時間単位の年次有給休暇、時差出勤、短時間勤務、在宅勤務、フレックスタイム制も挙がっています。
相談を受けたあとは、相談・申出、支障と配慮の検討、支援の実施(1か月後、3か月後などのフォローアップを含む)の3ステップで進めます。配慮の検討に診断名や治療内容などの詳しい医療情報は必ずしも要らず、必要なときは本人の同意を得て、産業医を通じて主治医に意見書を依頼します。窓口の置き方は「女性の健康の相談窓口を企業に置くには」、生理休暇の運用は「生理休暇とは|「おかしい」「取りすぎ」と言われる前に知る法律上の扱い」で詳しく扱っています。
健診機関との契約で決めておくこと
問診票を改正した通知には、適用開始日や経過措置の定めがありません。2026年4月28日付で改正後の問診票が示された、というのが確認できる事実です。委託先の健診機関がいつからこの質問を使うかは機関ごとに違いうるため、次の契約更新や健診の打ち合わせで確認しておくと安心です。
確認しておきたいのは次の4点です。
- 委託先の健診機関が、No.32を含む改正後の問診票を使うかどうか、いつから使うか
- 「はい」の人数の集計を受け取るかどうか。受け取るなら、その範囲と同意の手続き(通知は委託契約であらかじめ定めておく必要があるとしています)
- 事業場ごとの受診者が10人を下回らないか。下回る事業場は集計を求めない
- 本人が集計から外れることを選んだ場合の扱い
集計を受け取れた場合、マニュアルは使い方の例として、特定の年代で「はい」が多ければ管理職向けの更年期の研修を行う、といった職場全体への取り組みを挙げています。人数を部署ごとに細かく求めると個人が推測されやすくなるため、単位は事業場か、それ以上の大きさにしておきます。
つまずきやすい点
個々の回答を求めてしまう。 健康管理の担当者が良かれと思って「誰が『はい』だったか」を健診機関に問い合わせても、提供されません。会社が個人の状況を知るのは、本人が相談してきたときだけです。
診断書を受け取った時点で配慮を約束する。 健診機関向けマニュアルは、勤務先に伝えたい受診者にはまず専門医の診断書を勧めつつ、診断書の提出が直ちに会社の配慮につながるわけではないとしています。社内で何をどこまで配慮するかを、衛生委員会等で先に決めておかないと、現場の上司がその場で約束してしまいます。
本人の意向を確かめずに配置を変える。 事業者向けマニュアルのQ&Aは、本人の意向を踏まえない配置転換は不利益な取り扱いと見なされる可能性があるとしています。配慮のつもりの異動が、本人にとっては不利益になることがあります。
男性従業員への説明を用意していない。 不公平だという声が出たときの説明例として、マニュアルは「性別に関わらず、すべての従業員の健康を支援するのが会社の方針です」という言い方を示しています。管理職向けの対応の手引きは「更年期世代への対応マニュアル|管理職が知っておくべきこと」にあります。
健康経営度調査との関係と、Floraの支援
厚生労働省は、健康経営優良法人2027の申請説明(2026年8月27日)で、この問診票の質問追加と専門医への受診勧奨を、健康経営度調査の「性差・年齢に配慮した健康づくり」のQ47・Q48に関連づけて紹介しています。事業者向けマニュアルも、この問診は義務ではないものの「健康経営」の観点から実施が推奨されるとしています。調査票での書き方は「健康経営度調査の「女性の健康」設問に何を書くか」をご覧ください。
この問診で会社に届くのは、多くても「はい」の人数だけです。数字が届いたあとに要るのは、相談を受け止める管理職と、選べる相談窓口と、使える制度です。FloraのWellflowは、女性の健康に関する従業員向けの相談と学び、管理職向けの研修、匿名のサーベイによる職場の状況把握を一つにまとめた法人向けサービスです。マニュアルが最重要課題とする管理職研修の形式の選び方は「男性管理職向け「女性の健康」研修の選び方」で比べています。
まとめ
一般健康診断の標準的な問診票に、2026年4月28日の通知で、女性特有の健康課題で職場において困っていることがあるかを尋ねる1問が加わりました。回答は任意で、会社に実施の義務はなく、個々の回答や受診勧奨の有無は会社に届きません。会社が受け取れるのは、事前の取り決めがあり受診者が10人以上の場合の「はい」の人数だけです。
人事が今からできるのは、委託先の健診機関に導入時期と集計の扱いを確認すること、そして健診のあとに従業員が相談してきたときの受け皿を、基本方針、衛生委員会での取り決め、管理職研修、相談窓口、休暇と勤務の制度の順に整えておくことです。
よくある質問
この質問への回答や実施は義務ですか。
会社は、誰が「はい」と答えたかを知ることができますか。
いつから健康診断の問診票に入りますか。





