ちゃん付けハラスメントとは|呼称が職場で問題になる理由と対策

2026年 9月 28日

ちゃん付けハラスメントとは、職場で「ちゃん」付けの呼称を使うことによって、相手の職業人としての立場を損なったり、不快感を与えたりする行為のことです。あだ名や下の名前での呼びかけも、同じ文脈で扱われます。呼称の問題として相談が上がることはまれですが、他の扱いと合わせて語られることがあります。

「ちゃん付けハラスメント」という名称が法律にあるわけではありません。呼称そのものが直ちに違法になることもありません。ただし、継続的に行われ、相手が拒否しているにもかかわらず続く場合は、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントの判断に関わってきます。

この記事では、なぜ呼称が問題になるのか、どこから対応が必要かを整理します。

ちゃん付けハラスメントの法律上の位置づけ

厚生労働省のパワーハラスメント指針は、呼称を独立した項目として扱っていません。判断は3要素に当てはまるかどうかで行います。

関係し得る類型は次のとおりです。

状況関係する類型
人格を軽んじる意図が明らかな呼称を繰り返すパワハラの精神的な攻撃
性別を理由に呼称を使い分けるジェンダーに関する問題、場合によりセクハラ
拒否を示しても続ける態様・継続性の観点から判断対象に

指針は、業務上必要かつ相当な範囲を超えたかどうかの判断にあたり、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮するとしています。

一度の呼びかけと、拒否を伝えた後も続く呼びかけは、別のものとして扱われます。

措置義務の全体像はハラスメントの種類一覧を、3要素はパワハラとはをご覧ください。

(出典:厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和2年厚生労働省告示第5号)

なぜ呼称が問題になるのか

親しみの表現として使われることが多いため、問題として認識されにくい領域です。ただし、職場での呼称には3つの働きがあります。

1つめは、立場を示すことです。顧客や取引先の前で一人だけ「ちゃん」付けで呼ばれれば、その人の職業人としての位置づけが外部に伝わります。担当者として扱われにくくなる、という実害が生じます。

2つめは、使い分けが属性を映すことです。女性社員だけ「ちゃん」付け、男性社員は「さん」付け。若手だけ下の名前、年長者は姓。こうした使い分けは、誰をどう見ているかを可視化します。性別役割分担意識に基づく言動は、ジェンダーハラスメントとして扱われる領域です。

3つめは、拒否しにくいことです。「そう呼ばないでください」と言うと、こちらが硬いと受け取られる空気があります。拒否のコストが高いため、我慢されたまま続きます。

この3つめは、指針の判断の考え方とも関係します。指針は「優越的な関係を背景とした」言動について、その言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指すとしています。呼称を拒否しにくい関係性がある場合、この要素に当てはまる可能性があります。

どこから対応が必要か

すべての「ちゃん」付けを禁止すべき、という話ではありません。対応が必要になるのは、次の場合です。

  • 本人が拒否を示している、または示しにくい状況にある
  • 対象が特定の属性に偏っている(女性だけ、若手だけ、など)
  • 顧客や取引先の前で使われている
  • 評価や指示を伴う場面で使われている

逆に、当事者間で合意があり、属性による偏りもなく、対外的な場面で使われていないのであれば、直ちに問題として扱う必要はありません。指針も、判断にあたって行為者との関係性を考慮事項に挙げています。

ここを区別せずに「一律禁止」から入ると、実際に困っている事案が埋もれます。長く一緒に働いてきた同僚同士の呼び方と、上司が部下一人だけを下の名前で呼び続ける状況は、同じ「ちゃん付け」でも性質がまったく違います。

会社が優先して手を入れるべきなのは後者です。関係性が対等でない場面と、拒否しにくい場面から見てください。

呼称と評価は別々に見えて、つながっている

呼称の問題を軽く扱えない理由がもうひとつあります。呼び方は、その人に対する期待の表れとして周囲に伝わるからです。

一人だけ下の名前で呼ばれている人は、会議での扱いも変わりがちです。意見を求められる順番、任される仕事の種類、発言への反応。呼称そのものが評価を決めるわけではありませんが、同じ見方が両方に表れます。

したがって、呼称の使い分けが特定の属性に偏っている職場では、他の場面でも同じ偏りがないかを確認する価値があります。登用の候補者リスト、任されている業務の範囲、評価コメントの言葉づかい。呼称は、確認の入口として使えます。

「呼び方くらい」で済ませると、その先にある扱いの差も見えないままになります。

呼ばれる側から見た構造

この類型の難しさは、指摘した側が損をしやすいことにあります。

「さん付けでお願いします」と伝えると、場の空気が変わります。相手が悪意なく親しみで呼んでいた場合はなおさらで、指摘した側が関係を壊したように扱われます。硬い、付き合いが悪い、といった評価につながることもあります。

そのため、本人からの申し出を待つ設計では機能しません。会社としてのルールがあり、個人の希望ではなく方針として適用される形にしておく必要があります。誰かが言い出したから変わった、という形にしないことが、結果的に本人を守ります。

企業が取るべき対策

  1. 対外的な場面のルールだけ先に決める。 顧客、取引先、採用候補者の前では役職または「さん」付けで統一する。ここは業務上の理由で説明できるため、反発が少なく、実害も大きい部分です。
  2. 使い分けがないかを確認する。 誰が誰をどう呼んでいるかは、会議に出れば分かります。性別や年齢で分かれていれば、その時点で見直しの対象です。
  3. 拒否の意思を示せる経路を作る。 本人が直接言えない前提で設計します。相談窓口でも、上司経由でも構いません。
  4. 一度の指摘で終わらせない。 習慣として定着しているものは、一度の周知では戻ります。運用として確認する仕組みが要ります。
  5. 呼称の統一を「堅苦しさ」の話にしない。 目的は職業人として対等に扱うことです。説明の仕方で受け止められ方が変わります。
  6. 管理職研修に入れる。 態度や呼称は、一般的なハラスメント研修で扱われにくい領域です。指針の考慮要素として態様・頻度・継続性が挙げられていることを示せば、根拠のある話として伝わります。

ルールにするときの具体的な書き方

規程に書き込むより、運用ルールとして示すほうが動きやすい領域です。書くとすれば、次の程度で足ります。

  • 顧客、取引先、採用候補者が同席する場では、役職名または姓に「さん」を付けて呼ぶ
  • 社内でも、評価、指示、依頼を伴う場面では同様とする
  • 呼称について本人から希望があった場合は、その希望に沿う
  • 性別や年齢によって呼称を使い分けない

4つめが実質的な中心です。ここだけでも明示しておくと、使い分けが起きている職場では会話が始まります。

判断に迷うケースはハラスメントのグレーゾーン診断で確認できます。性的な言動が伴う場合はセクシュアルハラスメントとはもご覧ください。

よくある失敗

「親しみの表現だから問題ない」で終える。 発した側の意図ではなく、継続性と、相手が拒否できる状況にあるかで判断されます。

全面禁止のルールだけ出す。 理由を説明せずに禁止すると、形だけ守られて実態が残ります。対外的な場面から始めるほうが定着します。

本人に直接確認する。 「嫌だった?」と上司が聞くと、本人は「大丈夫です」と答えます。確認するなら、呼称のルール全体を見直す形で行ってください。

指摘した人を「細かい人」として扱う。 これが起きると、次から誰も言いません。方針として会社が決めておけば、個人が指摘する必要がなくなります。

採用の場面を見落とす。 会社説明会や面接で、社員同士の呼び方は候補者に見られています。2026年10月1日からは求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策も事業主の義務になります。対外的な場面のルールを決めるときは、採用の場も対象に含めてください。

新任の管理職に引き継がない。 呼称の習慣は、その部署に長くいる人ほど変えにくいものです。異動や昇格のタイミングが、実は変えやすい機会です。

Floraの支援:言いにくいことを受ける経路をつくる

呼称の問題は、単独では相談として上がってきません。「そんなことで」と思われることを本人が分かっているからです。実際には、他の扱いと合わせて積み重なっていることが多くあります。

FloraのWellflowは、従業員が直接相談できる窓口と、管理職向けの研修を提供しています。人事のラインとは別の経路があることで、単独では言いにくい事柄が拾えるようになります。

まとめ

ちゃん付けハラスメントは法律上の独立した類型ではなく、呼称そのものが直ちに違法になるわけでもありません。ただし、拒否しても続く場合、特定の属性に偏っている場合、対外的な場面で使われている場合は、態様や継続性の観点から判断の対象になります。

実務としては、全面禁止より、対外的な場面のルールを先に決めるほうが効きます。使い分けが属性で分かれていないかの確認と、拒否の意思を示せる経路の整備が、あわせて必要です。

よくある質問