パワハラとは|3つの要素と6類型、指導との線引きを指針から確認する

2026年 9月 28日

パワハラ(パワーハラスメント)とは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものをいいます。厚生労働省の指針が定める定義で、①から③のすべてを満たすものがパワハラにあたります。

同じ指針は、逆側も明記しています。客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラには該当しません。

この記事では、3つの要素がそれぞれ何を指すのか、代表的な6類型、そして指導との線引きを、指針の記述にそって整理します。

(出典:厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和2年厚生労働省告示第5号)

パワハラとは何か|指針が定める3つの要素

①優越的な関係を背景とした言動

「優越的な関係を背景とした」とは、業務を遂行するにあたり、その言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します。

指針は例として3つを挙げています。職務上の地位が上位の者による言動。同僚または部下による言動で、その者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、協力を得なければ業務の円滑な遂行が困難であるもの。そして同僚または部下からの集団による行為で、抵抗または拒絶することが困難であるもの。

つまり上司から部下へ、とは限りません。専門知識を握っている同僚や、集団としての部下も行為者になり得ます。ここを「役職者の問題」として扱うと、実際に起きている事案を拾えません。

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

社会通念に照らし、その言動が明らかに業務上の必要性がない、またはその態様が相当でないものを指します。指針が挙げる例は、業務上明らかに必要性のない言動、業務の目的を大きく逸脱した言動、業務を遂行するための手段として不適当な言動、そして行為の回数や行為者の数など態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動です。

判断にあたっては、言動の目的、言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容や性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮するとされています。単発の発言だけを切り出して判定するものではありません。

③労働者の就業環境が害されるもの

労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。

判断基準は「平均的な労働者の感じ方」です。同様の状況でその言動を受けた場合に、社会一般の労働者が看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動かどうかで見ます。受け手が不快に思えば即該当、でも、受け手が我慢していれば不該当、でもありません。

「職場」と「労働者」の範囲

要素の前に、範囲を押さえておきます。指針のいう「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、通常就業している場所以外であっても、その労働者が業務を遂行する場所であれば職場に含まれます。出張先、取引先、移動中も対象になり得るということです。

「労働者」も広く取られています。正規雇用労働者だけでなく、パートタイム労働者、契約社員等のいわゆる非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用する労働者のすべてです。派遣労働者については、派遣元だけでなく、派遣先も指揮命令の下に労働させる派遣労働者を雇用する事業主とみなされ、措置義務の規定が適用されます。

パワハラの6類型と、該当しない例

指針は代表的な言動の類型を6つ挙げ、それぞれに「該当すると考えられる例」と「該当しないと考えられる例」を示しています。後者があることが重要です。

類型内容
身体的な攻撃暴行・傷害
精神的な攻撃脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
人間関係からの切り離し隔離・仲間外し・無視
過大な要求業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
過小な要求業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること、仕事を与えないこと
個の侵害私的なことに過度に立ち入ること

精神的な攻撃の該当例を見ると、指針が何を問題にしているかが具体的に分かります。人格を否定するような言動を行うこと(相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む)。業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。相手の能力を否定し罵倒するような内容の電子メール等を、当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること。

「繰り返し」「面前」「複数宛て」という言葉が並びます。一度の厳しい叱責ではなく、継続性と公開性が判断を分けています。

該当しない例として指針が挙げているものを見ると、線引きの考え方が分かります。人間関係からの切り離しでは、新規採用者を育成するために短期間集中的に別室で研修を行うことは該当しません。過大な要求では、業務の繁忙期に業務上の必要性から担当者に通常時より一定程度多い業務を任せることは該当しません。過小な要求では、労働者の能力に応じて一定程度業務内容や業務量を軽減することは該当しません。

いずれも目的と程度で分かれています。育成のためか、嫌がらせのためか。一定程度か、かけ離れているか。

指導とパワハラの線引き

現場で最も相談が多いのがここです。指針は、精神的な攻撃に該当しない例として、遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること、そして業務の内容や性質に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して一定程度強く注意をすることを挙げています。

指針はまた、労働者の行動が問題となる場合には、その内容・程度と、それに対する指導の態様との相対的な関係性が重要な要素になると述べています。強く言ったかどうかではなく、何に対してどう強く言ったかの釣り合いを見る、ということです。

判断に迷う場面の手順はハラスメントのグレーゾーンとは|判断の手順で扱っています。個別のケースはハラスメントのグレーゾーン診断でも確認できます。

事業主に義務づけられている措置

パワハラ防止の措置義務は、労働施策総合推進法に基づき、大企業には2020年6月1日から、中小企業には2022年4月1日から課されています。現在はすべての事業主が対象です。

指針が定める措置は4つの区分に分かれます。事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発。相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備。職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応。そしてこれらと併せて講ずべき措置です。

4つめの区分に、実務で見落とされやすい定めがあります。相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知すること。そして指針は、このプライバシーに性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれると明記しています。

ライフイベントに当たるパワハラ

前項のプライバシーの定めは、6類型の「個の侵害」と対応しています。指針は、個の侵害に該当する例として、労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、本人の了解を得ずに他の労働者に暴露することを挙げています。

一方、該当しない例として挙げられているのが、本人の了解を得て、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すことです。了解を得ているか、範囲が必要な限度かの2点が分かれ目になります。

治療や育児と仕事の両立を支える場面では、事情を知らなければ配慮ができません。だからこそ情報が動きます。動かし方を決めていない職場では、善意の共有がそのまま個の侵害になります。

ライフイベントに関わるハラスメントには、法律上の位置づけが別に用意されているものもあります。妊娠・出産等に関するものはマタニティハラスメント、育児休業等に関するものはパタニティハラスメントで扱っています。時短勤務者への言動は時短ハラスメント(ジタハラ)にまとめました。顧客等からの言動については、2026年10月1日からカスタマーハラスメントへの措置義務が課されます。

Floraの支援:相談の受け皿を、人事だけに背負わせない

個の侵害の周辺は、人事担当者にとって扱いが難しい領域です。不妊治療、病歴、更年期の不調といった情報は、配慮のために共有が要る一方で、共有の仕方を誤ればそれ自体がハラスメントになります。相談を受ける側にも、どこまで聞き、どこから先は本人の了解が要るのかの判断が求められます。

FloraのWellflowは、こうした健康課題について従業員が直接相談できる窓口と、管理職向けの研修を提供しています。機微な情報を人事のラインに乗せる前に本人が相談できる場所があることで、共有の範囲を本人が決められる状態をつくれます。

まとめ

パワハラは、優越的な関係を背景とした言動、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、就業環境が害されるものという3つの要素をすべて満たすものを指します。適正な業務指示や指導は該当しないと指針が明記しています。

6類型にはそれぞれ「該当しない例」が併記されており、目的と程度で線が引かれています。措置義務はすでに全事業主が対象です。特に個の侵害とプライバシー保護の定めは、性的指向・性自認、病歴、不妊治療といった情報を扱う場面に直接かかってきます。

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