出生サポート休暇とは|国家公務員の制度と、民間企業の設計への使い方
2026年 9月 24日

出生サポート休暇とは、不妊治療のための通院等に使える、国家公務員の特別休暇の名称です。正式には「不妊治療に係る通院等のための休暇」といい、令和3年(2021年)12月1日に公布、令和4年(2022年)1月1日から施行されました。
民間企業に同じ名前の制度があるわけではありません。それでも人事の担当者がこの制度を調べるのは、不妊治療の休暇を自社で設計するとき、日数も単位も有給無給もすべて自分で決めなければならないからです。法定の制度がない領域では、国が自らの職員に何をどこまで認めたかが、数少ない基準になります。
この記事では、人事院が定めた出生サポート休暇の中身を正確に押さえたうえで、民間企業が就業規則に落とすときの論点に翻訳します。
出生サポート休暇とは、国家公務員の特別休暇
出生サポート休暇は、人事院規則15―14(職員の勤務時間、休日及び休暇)にもとづく特別休暇の一つです。不妊治療を受けるための医療機関への通院、その医療機関が実施する不妊治療に関する説明会への出席などに使えます。移動の時間も含みます。
名称に「出生」と入っていますが、出産後に使う休暇ではありません。妊娠に至る前の、治療の段階を支える休暇です。名前だけを見ると制度の中身を取り違えやすいところで、自社で名称を決めるときにも同じ問題が起こります。
不妊治療のための休暇は、労働基準法にも育児・介護休業法にも定めがありません。年次有給休暇を使って通院している従業員がいても、会社からは治療のための取得だと分かりません。だからこの領域では、他社事例か、公務員の制度を参照するかのどちらかになります。
年次有給休暇で代用できるではないか、という意見は必ず出ます。ただ年休は理由を問わない休暇なので、治療のために使い切った人と、そうでない人が同じ残日数で並びます。体調不良や子の行事に使う余力が残らない状態は、本人にしか見えません。専用の休暇を別に置く意味は、日数を増やすことよりも、年休を治療で使い切らせないことにあります。
(出典:人事院「出生サポート休暇(不妊治療に係る通院等のための休暇)」)
制度の中身:日数・有給・取得単位・対象者
日数は2段階です。 通常の不妊治療に係る通院等は1の年において5日の範囲内、体外受精および顕微授精に係る通院等である場合は10日の範囲内になります。
| 区分 | 付与日数 |
|---|---|
| 通常の不妊治療に係る通院等 | 1の年において5日の範囲内 |
| 体外受精および顕微授精に係る通院等 | 10日の範囲内 |
体外受精・顕微授精で日数が倍になるのは、治療の性質によるものです。採卵に向けた通院は数日おきになり、刺激周期では回数がさらに増えます。5日では足りない治療があるという前提が、制度の側に置かれています。自社で日数を決めるとき、ここが最初の分かれ目になります。一律で年5日にすると、いちばん支援が要る層に届きません。
有給です。 そして1日または1時間の単位で取得できます。この2点は、日数より重要かもしれません。不妊治療の通院は、半日では長すぎて、1日では足りすぎることが多いからです。午前中に2時間だけ抜ける、という使い方ができるかどうかで、実際に使われる回数は変わります。
対象は常勤職員の全員です。 非常勤職員は、1週間の勤務日が3日以上、または1年間の勤務日が121日以上の職員が対象になります。
請求は休暇簿によって行います。 診断書のような証明書類を都度求める設計にはなっていません。制度を作るときに必ず議論になるのが「不正利用をどう防ぐか」ですが、国の制度は証明書類を前提に置いていない、という事実は押さえておく価値があります。
なお「1の年」という数え方にも注意が要ります。常勤職員は暦年、非常勤職員は年度が単位です。自社で設計するときは、年次有給休暇の付与基準日に合わせるか、暦年で切るかを先に決めてください。ここを決めずに運用に入ると、年をまたぐ治療で「今年の残日数が何日か」を誰も答えられなくなります。
民間企業が設計に使うときの4つの論点
人事院の設計を自社の就業規則に翻訳すると、決めることは次の4つに絞られます。
| 論点 | 国家公務員の設計 | 自社で決めること |
|---|---|---|
| 日数 | 年5日、体外受精・顕微授精は10日 | 治療段階で差をつけるか、一律にするか |
| 有給・無給 | 有給 | 全部有給か、一部有給か |
| 取得単位 | 1日または1時間 | 時間単位を認めるか。半日で止めると使われにくい |
| 証明 | 休暇簿による請求 | 診断書を求めるか。求めるほど申請は減る |
このうち、費用がかからないのに効くのは取得単位です。日数と有給化は人件費に直結しますが、1時間単位を認めるかどうかは運用の決めごとにすぎません。既存の休暇制度が半日単位で止まっているなら、まずそこを時間単位に開くほうが、新しい休暇を1つ作るより早く効きます。
順番としては、取得単位を開く、次に日数を2段階にする、最後に有給の範囲を決める。この順で議論すると、費用の判断を最後に回せます。
就業規則に落とすと、条文はこの程度の分量で足ります。
> 第◯条(不妊治療のための休暇) > 1. 従業員が不妊治療に係る通院等をする場合、1年度につき5日を限度として特別休暇を与える。ただし、体外受精または顕微授精に係る通院等の場合は、10日を限度とする。 > 2. 前項の休暇は、1日または1時間を単位として取得することができる。 > 3. 第1項の休暇は有給とする。 > 4. 休暇の請求は所定の様式により行うものとし、証明書類の提出は求めない。
第2項と第4項が、使われるかどうかを分けます。日数だけを定めて単位と証明を書かないと、運用の段階で半日単位に丸められたり、診断書を求める運用が足されたりします。条文に書いておけば、その余地がなくなります。
休暇と休職の使い分け、助成金や認定制度との組み合わせは「不妊治療休暇・休職制度とは」で扱っています。制度全体の作り方は「不妊治療と仕事の両立支援制度のつくり方」にまとめました。
名称と周知をどう設計するか
国の制度が「出生サポート休暇」という名前を選んだこと自体に、設計の意図が出ています。「不妊治療休暇」という名称は、申請した時点で治療の事実が上司に伝わります。目的を限定しない名前にすれば、その一段が省けます。
一方で、目的がぼやけると制度の存在そのものが知られないという副作用もあります。名称を広くとるほど、周知は具体的にしなければなりません。社内の案内文では治療のための休暇であることを明記し、申請の画面では理由の記載を求めない。この組み合わせが、名称を変えるときの実務的な落としどころです。
周知の経路も分けて考えてください。全社への制度周知は、使う人だけでなく周囲の理解のために必要です。個別の説明は、本人が申し出たときに上司ではなく人事が受けられる経路を用意しておくと、申し出のハードルが下がります。
周知のタイミングも決めておくと運用が安定します。入社時の説明に入れるだけでは、数年後に必要になったときには忘れられています。年に一度、制度一覧として全従業員に送る形にしておけば、必要になった人が自分で見つけられます。健康診断の案内や年末調整のように、全員が必ず目を通す連絡に添える方法もあります。
管理職向けの説明も別に要ります。申し出を受けた上司が「どのくらい休むのか」「いつまで続くのか」を聞いてしまうと、それ自体が負担になります。治療の見通しは本人にも分からないことが多い、という前提を管理職側に共有しておくだけで、最初のやり取りが変わります。
治療を言い出しにくい空気そのものへの対応は「妊活ハラスメントとは」で扱っています。制度の設計と同時に見ておく領域です。
よくある失敗
- 年5日だけを写す。 体外受精・顕微授精で10日という2段階が、この制度の要点です。一律5日にすると、いちばん通院が多い層で足りなくなります。
- 半日単位で止める。 通院は1〜2時間で終わることが多く、半日単位では実態に合いません。時間単位を認めないと、年次有給休暇のほうが使いやすい制度になってしまいます。
- 診断書を必須にする。 国の制度は休暇簿による請求です。証明書類を厚くするほど、申請そのものが減ります。治療の事実を会社が確認する必要が本当にあるのか、そこから議論してください。
- 制度だけ作って周知しない。 不妊治療は本人から申し出にくい領域です。制度の存在を全社に周知し、人事が直接受ける経路を用意しないと、使われないまま数年が過ぎます。
- 利用実績をゼロのまま放置する。 利用が0件のとき、対象者がいないのか、使いにくいのかは制度の側からは分かりません。取得単位と申請経路を一度変えてみて、変化を見るのが確かめ方になります。
- 対象を女性に限る。 不妊治療は二人で受けるものです。検査も通院も男性側に発生します。対象を女性従業員に限定すると、男性が年次有給休暇で通うことになり、制度の利用実績にも表れません。
Floraの支援:制度を作ったあと、使われる状態にする
Flora株式会社の「Wellflow」は、従業員の健康課題を可視化し、制度の利用状況とあわせて運用を見直すサービスです。不妊治療の休暇は、作った時点では誰も使いません。誰がいつ使えるのかが伝わっているか、申請の経路が本人の負担になっていないかを、データで確かめながら整えます。
自社の制度をどこから見直すか、まずは現状の整理からご相談ください。
まとめ
出生サポート休暇は、国家公務員の特別休暇です。年5日、体外受精および顕微授精に係る通院等なら10日、有給で1日または1時間の単位。常勤職員は全員が対象で、請求は休暇簿によります。
民間企業がここから受け取れるのは、日数の2段階、有給、時間単位、証明を求めない請求という4つの設計判断です。費用をかけずに最初に動かせるのは取得単位で、時間単位を認めるかどうかが利用実績をいちばん左右します。名称を広くとるなら、周知はその分だけ具体的にしてください。
よくある質問
出生サポート休暇は民間企業にもありますか。
年5日と10日は、どちらが適用されますか。
非常勤職員も取得できますか。





